猪俣組
雑記一覧 過去ログ
12/08 しあわせなこと
11/10 時間割表を確認する
10/21 空を飛んだヒヨコ
09/08 若者ぶれる若さ
08/14
08/11 天国と地獄
08/04 屋久島の自然を求めて:星空編
08/02 屋久島の自然を求めて:味覚編
08/01 屋久島の自然を求めて:過酷編
06/30 子供達が見るもの
06/20 加齢臭は臭いに限らず
06/06 顔に出る
05/30 それぞれの都合
05/26 新鮮という意味
05/06 生き延びるための巡業
04/24 酔っ払いの癖
04/04 怖いかつら
03/31 妻に逃げられた男になってみる
03/21 『エロ』と『遊び』の膨張する余地
03/07 信じたいから疑う
03/03 いとしい過去の断片
02/27 職人が消える
02/12 ぽっくり逝くこと
01/25 理想は追わない
01/08 挨拶する隣人
01/07 ケータイのない待ち合わせ
 空を飛んだヒヨコ
 地元に祭りの季節がやってきた。夕食として某ラーメン屋に入りラーメンをずるずる啜っていると、窓の外からどんちゃんどんちゃん、太鼓と鐘の音と若い男の声が響いてきた。ハッピを羽織った男衆に曳かれてだんじりが現れる。ぼんやり灯った提灯の列が美しい。茶髪の男児がだんじりの上で歌い踊る。
 お宮さんのほうでは屋台が出ているのだろう。
 祭りや縁日の屋台、テキ屋は昔から好きだ。
 小学生の頃、200円の『ヒヨコ釣り』をして、ピヨピヨと鳴く黄色いヒヨコを捕らえたことがあった。一緒にいた母は、世話が大変そうだし、大人の鶏になったらどうしていいかわからないから、と言って、テキ屋の兄ちゃんに返そうとしたけれど、小学生のおいらは当時のつぶらな瞳で(今現在は中堅ヤクザの目と言われているが)訴え、母を黙らせたらしい。ビニール袋に入れてもらったヒヨコを持ち帰った。

 その頃、ポメラニアンを飼っていたのだが、気性が荒く、子供を舐めてしまっておいらにはなつかなかった。抱こうとすると噛み付く始末。だが、屋台で釣り上げたヒヨコは、ピヨピヨピヨ……とおいらの後ばかりを付いてくる。お風呂に入るのにも、ご飯を食べるのにも、いつもピヨピヨピヨ、一緒。
 母は、せっかくの飼い犬を抱けないおいらを不憫に感じていたらしく、ヒヨコを連れて帰ってきて良かったと思ったそうだ。しかし、ヒヨコはすぐに鶏になる。幸か不幸か近所に養鶏場があった(大阪でも田舎に住んでいたので)。鶏になって、朝陽にコケコッコーと鳴くようになったら、養鶏場にもらってもらう、というのが条件だった。今から思えば、けっこう残酷な条件ではあるが。

 ある晴れた日。母は、おいらが学校に通っている間、ヒヨコをピヨピヨピヨと日向ぼっこさせるべく、ベランダに放った。その時に住んでいた家は3階建てで、ベランダは24畳くらいの広さがあった。あちこちを走り回るヒヨコ。ピヨピヨピヨ。母は安心して放し飼いにしたらしい。
 その日の夕方、学校から帰ってくるとヒヨコがいない。いつもなら、帰宅するなりピヨピヨピヨ……と現れるヒヨコが現れない。嫌な予感を察したおいらは、とにかく家じゅうを探したと思う。ベランダに出て、欄干に手を付き下を覗いて硬直する。
 ヒヨコが! ヒヨコが地上に倒れてる!!

 ベランダの欄干の下には隙間があって、ヒヨコはそこからダイブしたのだと判明。おいらは泣き暮らし、そのおよそ1週間後に、新たなペットがうちにやってきた。母が罪の意識を感じたのだろう。老人にも優しいシーズーが、ポメラニアンを尻目に我が家のアイドルとなった。
 だが、それでも追いかけてきたヒヨコのことは今でも思い出す。おいらが親になれた、夢のような2週間だったから。

 気づけばだんじりは通り過ぎ、後には祭りの名残りが寂しげに漂って、伸びたラーメンだけが目の前にあった。

2008.10.21(tue)
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